中医学による治療法には、湯液(漢方)、針灸、推拿、薬膳、気功などがあります。 中医学でも、現代医学と同様に疾病を分類し治療方針をたてます。 しかし現代医学的病名では分類しません。なぜなら、現代医学と中医学では病態に対するアプローチが違うからです。
現代医学は、17世紀に現在の顕微鏡の原型が発明されて以来、細胞レベルで人体を診るようになり、「病人を診る医学」から「病気を診る医学」になり、病名で疾病を分類するようになりました。それに対し中医学では、体系付けられた古代から、人体を1つの有機体としてとらえ、体に現れる病態を総合的に判断し分類する方法が発達しました。そして現在もそのスタイルは変わっていません。
中医学の疾病は、「証」によって分類します。 証とは、疾病のある段階における症候群と、疾病の原因、位置、性質などを総合的にあらわしたものです。現代医学では、病態の軽重に関わらず、病名で分類しますが、中医学は、現代医学における同じ病名の疾患でも、病態のレベルによって証は違ってきます。逆に違う病名の疾患でも、病態が同じであれば、証も同じになります。
証を導き出すことを「弁証」といいます。弁証は、問診、望診(体表、表情の診察)、聞診(音や臭いの診察)、切診(脈診、腹診など)による情報を総合的に収集・分析しておこなわれます。弁証には、いくつかの方法があり、多方面から病態にアプローチできるようになっています。
弁証方法をいくつか紹介します。
「八綱弁証」
表裏、寒熱、虚実、陰陽から疾病の深浅と性質、正気と邪気の盛衰を分析します。表裏は疾病の位置が肌表など浅いところにあれば表、臓腑など深いところにあれば裏になります。虚実は、体に必要なもの(正気)が減少していれば虚、余計なもの(邪気)が増えれば実になります。
「気血津液弁証」気、血、津液(水)の減少や停滞による症状から分析します。
「臓腑弁証」肝・心・脾・肺・腎・心包の六臓と、胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦の六腑の生理機能と、疾病の各症状から病理を判断し、どの臓腑の機能にどのような異常があるのかを分析します。
「経絡弁証」外邪が人体に侵入すると、経絡を通って臓腑に向かいます。臓腑の異常も経絡を通って体表に現れます。経絡上の異常や、経絡が所属する臓腑の機能失調から、どの経絡、臓腑に疾病があるのかを分析します。
「病邪弁証」疾病の原因が何によって起こっているのかを分析します。自然界の風、寒、暑、湿、燥、火(熱)の邪のどれかまたは複数が体に侵入したことによって疾病は発生します。またそれ以外に、怒、喜、思、憂、非、恐、驚など感情(七情)の失調によっても疾病は発生しますから、それぞれの特徴と症状から病態を把握します。
「衛気営血弁証」熱性の外邪による温熱病を、「衛分証」、「気分証」、「営分証」、「血分証」の4つの段階に分類して分析します。温熱病が肌表にある初期段階が衛分証、肺・胸郭・胃・腸などの裏に入ってきたものが気分証、更に心と心包に入ったものが営分証、もっと深く肝・腎に入った物は血分証になります。熱症状とそれぞれの臓腑の機能異常で分析します。
「六経弁証」おもに寒性の外邪による外感病を、「太陽病」、「陽明病」、「少陽病」、「太陰病」、「少陰病」、「厥陰病」の6つの段階に分類して分析します。三つの陽病と三つの陰病に分けられ、陽病では疾病に対する抵抗力が強い段階で、陰病は抵抗力が不足している状態をあらわし、病理変化に合わせて段階が代わっていきます。
これらの弁証はそれぞれ完全に独立したものではなく、重なる部分も多く、複雑な病態にも補完しあいながら対応できるようになっています。病態を総合的に分析し、「証」をたてると、次は治療方針を決定します。これを「論治」といいます。治療方針は治則という治療原則にもとづいて決定されます。
いくつかの治則を紹介します。
「病を治療するには必ず本を求める」
個々の症状を標といい、疾病の本質を本と言います。治療では個々の症状ばかりに眼を向けず、必ず本質を見極める必要があると言うことです。そうでなければ、疾病を根本から治すことができません。
「補虚瀉実」扶正袪邪ともいいます。人体の正気(抵抗力など)が不足した「虚」の状態では、正気を補います。また、邪気(外邪や内生の邪など)が多くなった場合は、それを取り除きます。
「陰陽の調整」人体は陰陽のバランスの上に健康を保っています。陰が増えたり、陽が減ると、体は陰に傾き、冷えなどの症状が現れます。逆に、陽が増えたり、陰が減ると、体は陽に傾いて熱症状などが現れることになります。このバランスを整えるように治療します。
「季節や地域、個人差を考慮する」暑い季節、寒い季節によって勢いのある外邪の種類も違いますし、汗や尿の量などの生理状態も変わってきます。また、地域によって生活習慣や普段食べているものも違いますし、気温や湿度も違います。人にも、性別、年齢、社会環境、心理状態などそれぞれ違いがあります。よって、これらを十分考慮して治療します。
このように中医学は、弁証論治によって、現代医学とは違った視点から病態を分析し、治療方針を決定して治療します。ですから、現代医学では治療方法のないものに対しても、中医学的な診断から即治療がおこなえます。つまり、免疫力の低下、内分泌系の異常、内臓機能の失調などでおこる疾病も、すべて陰陽のバランスの崩れによって起こっているので、弁証論治によってそのバランスの崩れを戻す方針を打ち出し、体を内側から治療していくことができるのです。

